後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは,交通事故によるけがのために将来回復困難である後遺症が残存したことについての精神的・肉体的苦痛を慰謝する賠償金です。後遺障害慰謝料は,交通事故により入院・通院を要するけがを負ったことについての慰謝料である入院・通院慰謝料とは別の慰謝料です。
後遺障害慰謝料についても入院・通院慰謝料と同様,その金額の算定は定額化の傾向にあり,自賠責基準,任意保険基準,裁判所基準のそれぞれにおいて相場が形成されています。自賠責基準と裁判所基準における各後遺障害慰謝料の相場は以下の算定表記載のとおりです。
◆自賠責保険基準における後遺障害慰謝料
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
1150・(1650) | 998・(1203) | 861 | 737 | 618 | 512 | 419 |
8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
---|---|---|---|---|---|---|
331 | 249 | 190 | 136 | 94 | 57 | 32 |
()内の数値は介護を要する後遺障害の場合 単位:万円
◆裁判所基準(弁護士基準)における後遺障害慰謝料
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
2800 | 2370 | 1990 | 1670 | 1400 | 1180 | 1000 |
8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
---|---|---|---|---|---|---|
830 | 690 | 550 | 420 | 290 | 180 | 110 |
単位:万円
上の表を見ても分かるように自賠責基準による後遺障害慰謝料と裁判所基準による後遺障害慰謝料の金額には大きな差があります。
◆近親者の慰謝料
被害者が死亡した場合の死亡慰謝料においては,被害者本人の慰謝料に加えて,近親者固有の慰謝料が認められますが,後遺障害慰謝料については,そのような近親者固有の慰謝料は原則として認められません。但し,重度の後遺障害が残存した場合のように被害者が事故により死に匹敵するような精神的苦痛を受けたときには近親者固有の慰謝料が認められます(最高裁判所昭和33年8月5日判決)。たとえば,交通事故により左下肢短縮による歩行障害等を理由として後遺障害7級の認定された被害者の女性(当時72歳)について,被害者本人の後遺障害慰謝料800万円とは別に,被害者が生命を害された場合にも比肩しうる面があるとして,夫(当時82歳)固有の慰謝料100万円が認められた例があります(横浜地方裁判所平成6年6月6日)。
◆逸失利益の算定が困難または不可能な場合に慰謝料で斟酌する場合
また,後遺障害慰謝料は逸失利益を補完する役割を担うことがあります。逸失利益とは後遺障害による将来の労働により得られるはずの収入の逸失を賠償するものです。労働能力にあまり影響を与えない後遺障害が残存した場合や被害者が事故当時年金受給者であった場合などでは,逸失利益が否定されたり,減額されたりします。そのような場合に後遺障害慰謝料を増額することにより全体としての賠償金の額を調整することがあります。
たとえば,交通事故による左精巣摘出により13級7号の後遺障害が認定された被害者につき,逸失利益は否定したものの,270万円の後遺障害慰謝料を認めた裁判例があります(東京高等裁判所平成20年9月4日判決)。
このように後遺障害慰謝料は認定された後遺障害の等級に応じて金額の目安が決められており,被害者としては,裁判所基準に従って後遺障害慰謝料を請求することができます。また,相場はあくまでも目安であり,裁判では,個別の諸事情に応じて適正な後遺障害慰謝料の額を認定しますので,相場による後遺障害慰謝料では納得できない場合には,被害者としては,通常とは異なる慰謝料を増額すべき具体的事情を適切に主張することが肝要です。
裁判所基準以上の慰謝料を求める場合,交渉では埒が明かないため,訴訟提起をせざるをえません。訴訟を提起し,裁判所に慰謝料増額事由を認定してもらうためには,弁護士に相談・依頼するのがよいでしょう。