みなさんは交通事故の治療に健康保険が使えないと思っていませんか?
みなさんは交通事故の治療に健康保険が使えないと思っていませんか?
交通事故の場合、健康保険が利用できないと思われている方もいらっしゃるかと思いますが、これは全くの誤解です。
後述のように、交通事故の場合であっても、健康保険を利用することができますし、健康保険を利用した方が、 メリットがある場合もあります 。
1.健康保険を使用できる理由
健康保険*は、被保険者の疾病、負傷、出産または死亡に関して必要な保険給付を行うことを目的とする制度です。
したがって、負傷や死亡の原因が交通事故であったとしても、当然、健康保険を利用して、医師の診療を受けることができるのです。
*サラリーマン等の加入している健康保険だけでなく、国民健康保険、公務員共済及び船員保険を含む広い意味での健康保険をいいます。
50年以上蔓延している誤解
厚生労働省からも、交通事故診療に健康保険が利用できるとの見解が表明されています。
「最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの“誤解”が被保険者等の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。」
(1968年10月12日保険発第106号)
近年も、2011年に、同様の通達が出されています(2011年8月9日 保険発第0809第3号「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」)。
つまり、1968年に問題視されている状況が、50年以上経過した現在も改善されず、「交通事故の治療に健康保険が使えない」という噂だけが広く蔓延してしまっているのです。
2.健康保険を使用できない場合
しかし、以下のような場合には健康保険を使用できない可能性があるので注意が必要です。
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業務または公務上の事故や通勤中の事故
健康保険ではなく、労災保険が適用されます。
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法令違反による事故
被害者側にも故意や重大な過失(無免許運転、飲酒運転など)がある場合
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過剰診療
必要ない頻度で通院するなど必要性や相当性が認められない場合
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整骨院や接骨院での治療
整形外科医の同意を得た上、認可された整骨院・接骨院で施術を受ける場合は正当な治療活動とされます。しかし、以下のケースは健康保険対象外となります。
・過去の交通事故による痛みの治療
3.健康保険を使ったほうがよいケース
①被害者にも過失がある場合
追突事故のような場合を除いて、被害者の過失が0になるケースは多くありません。
その場合、治療費として支払う額を抑えなければ、自己負担額が大きくなってしまい経済的負担となります。
健康保険を使ったケース (保険診療) |
健康保険を使わなかったケース (自由診療) |
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治療費 | 30万円 (窓口負担3割) |
100万円 (全額負担) |
加害者への請求額 | 24万円 | 80万円 |
自己負担額 | 6万円 | 20万円 |
※【過失割合】加害者:被害者=8:2(被害者の過失が2割)の場合
※【治療費】100万円
②加害者が任意保険に未加入の場合
加害者が任意保険に入っていなかった場合には、基本的に自賠責保険をベースとして示談の交渉を行わなければなりません。
ただし、自賠責保険には120万円という上限がありますので、治療費を抑えなければ慰謝料や休業補償といったその他の請求が難しくなります。
加害者が任意保険に加入している場合でも、治療費を抑えて出費を少なくすることは、手元に多くお金を残しておける安心にも繋がります。自由診療は治療費が自由化されており、提示された治療費が高額かどうかの判断が難しいことにも注意が必要です。
③ひき逃げで加害者が特定できない場合
加害者が特定できない場合には損害賠償請求は出来ませんので、政府保障事業や被害者ご自身の任意保険から補償されることとなります。
4.健康保険の利用でよくあるQ&A
①健康保険を利用した場合のデメリットはあるの?
法的な効果という意味でのデメリットはほとんどありません
。
自由治療を使用するメリットとしては、治療範囲が制限されないことが上げられますが、交通事故の治療において、保険適用外の新しい治療法はほとんど必要がありません。保険適用の治療でも十分対応が可能です。
②途中から健康保険に切り替えられる?
切り替えは可能ですただし、治療当初の自由診療分をさかのぼって健康保険に適用してもらうには病院の理解と協力が必要です。
③病院が健康保険の適用に非協力的だった
単純に交通事故に健康保険は使えないと思い込んでいる場合もあれば、知っている上で、病院の収入面から非協力的な可能性もあります。交通事故の場合、病院との連携も重要となってきます。非協力的な病院の場合は他の病院に変えることをオススメします。
5.健康保険の使い方
1)医療機関に対する申入れ
交通事故の治療のために医療機関で診療を受ける場合には、まず医療機関に対し、「診療に健康保険を利用したい」と明確な意思表示をしましょう。
救急搬送されるなどして初診時に提示できなかった場合でも、初診からの健康保険対応を認めてくれる医療機関もありますので、後からでも利用を申し出ましょう。
2)保険者への届出
交通事故の場合に限らず、第三者の行為によって受傷した被害者が健康保険を利用して診療を受けるには、被害者の加入している健康保険の保険者に対し、「第三者行為による傷病届」など、 保険者所定の書類を提出する必要があります。
交通事故のように、第三者の行為によって損害を受けた場合には、被害者は、第三者に対して、損害賠償請求権を取得するとともに、健康保険に対しても給付請求権を取得することになります。
健康保険は、不法行為者である加害者が負担すべき治療費を一時的に立替払いしているにすぎず、最終的には加害者が治療費を負担することを予定しています(健康保険法57条等)。
したがって、同一の事由による損害について、二重取りを防ぐため、「第三者行為による傷病届」 などの書類提出を要求 しているのです。
6.第三者行為による傷病届の手続方法
保険者所定の書類としては、以下のものが挙げられますが事故後直ちに提出する必要はありません。
- 第三者行為による傷病届
- 念書
- 事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 納付誓約書
とりあえず、口頭(電話でもOK)で保険者に手続きの意思を伝えておき、 後日正式な書類を提出 すれば問題ありません。
現在、大抵の健康保険ではHP上に手続方法が明記されています。
その他の健康保険にご加入の方は、健康保険名称+第三者行為検索してください。
手続きはお早めに!!