無保険車との事故
加害者が任意保険に未加入の場合、いわゆる無保険者との事故の場合、どのような請求が可能でしょうか。
1 加害者の自賠責保険に被害者請求
加害者が自賠責保険に加入している場合には、加害者の自賠責保険を利用することが考えられます。
被害者請求を行うことにより、治療費や通院慰謝料等のうち自賠責保険の基準内で認められる金額については支払いを受けることができます。
もっとも、自賠責保険は物損には適用されませんし、人損に関しても自賠責基準でのみ支払いがなされるにすぎません。したがって、損害の填補が十分でない可能性があります。
また、仮渡金制度を利用することで、被害者が負担する治療費等を事前に填補できる可能性があります。仮渡金制度とは、被害者が死亡又はケガにより11日間以上の治療が必要であり、加害者から損害賠償の支払いを受けていない場合において、当座の医療費・生活費・葬儀費等に充てるために被害者の請求により支払われる保険金をいいます(自賠法17条)。死亡に対して290万円、それ以外は傷害程度に応じて40万円、20万円、5万円の3段階に分けて支払われます。
2 政府保障事業の利用
加害者が自賠責保険に加入していなかった場合には、政府保障事業を利用することが考えられます。
政府保障事業とは、自賠責保険の対象とならない無保険事故等に対して健康保険や労災保険等の社会保険給付や本来の損害賠償責任者の支払いによっても、なお被害者に損害が残る場合に最終的な救済措置として自賠責基準の範囲内で政府がその損害を填補する制度をいいます。
当該制度を利用する場合、無保険事故の場合には7か月間前後の期間を要するため時間がかかりますし、填補される範囲も自賠責基準の範囲内であるため損害の全額が填補されるわけではない点に注意が必要です。
3 加害者に直接請求
事故により本来責任を負うべき者は加害者自身です。そのため、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが考えられます。
ただし、加害者が任意保険や自賠責保険にも加入していない場合には加害者の資力に問題があることが多く、回収可能性について十分検討する必要があります。
4 被害者の人身傷害特約を利用
被害者が任意保険である人身傷害特約に加入していた場合には、当該特約に基づき保険金を受領することが考えられます。
これは任意保険であり、保障の内容は各社毎に異なりますが、保険会社独自の基準により保険金が下りることが一般的であり、契約内容によっては損害の全額が填補されないこともありえます。
被害者自身に過失(重過失は除く)があったとしても自身の過失に関係なく保険会社から保険金を受け取ることが可能です。
5 被害者の無保険車傷害特約を利用
被害者が任意保険である無保険車傷害特約に加入していた場合には、当該特約に基づき保険金を受領することが考えられます。
人身傷害特約との大きな違いは、①被害者側の過失分が控除される点、②被害者に死亡・後遺障害が残存した場合に保険金が支払われる、という点です。
加害者が無保険者の場合には被害填補が難しい可能性がありえますが、以上のような解決策があり得ますので、事情に応じて適切に対応する必要があるといえます。