
経済的全損とは?
経済的全損と買替諸費用
1.経済的全損について
車が事故によって損傷し、修理が必要になった場合は、修理代全額が賠償されるとは限りません。事故にあった車と、「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」(最判昭和49年4月15日)と修理代を比較し、修理代の方が高い場合は、賠償金額は、「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」が上限となります。このような状態を「経済的全損」と言います。
「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」とは、「被害車両の時価額だけでなく、買替諸費用等を含めた全損害額」(東京地判平成15年8月4日)を指します。時価額の他に、①買替諸費用、②事故車両の残存車検価格、③廃車費用が挙げられます。
以上をざっくりまとめると、以下のとおりです。
事故車と同じ車を購入するために必要な金額<修理代
→事故車と同じ車を購入するために必要な金額が賠償される
事故車と同じ車を購入するために必要な金額>修理代
→修理代が賠償される
これは、過失割合を問わず変わりません。理不尽なようにも感じますが、日本の不法行為制度は、生じた損害の賠償を認めるにとどまり、原状回復までを加害者に要求していません。そのため、事故に遭った車を修理したくても、修理代の方が事故車と同じ車を購入するために必要な金額よりも高ければ、修理代の支払いを求めることはできないのです。
2.買替諸費用について
買替諸費用に計上されるのは、以下の費用の相当額です。
- 自動車税環境性能割、軽自動車税環境性能割(かつての自動車取得税)
- 消費税
- ナンバー交付手数料
- 車庫証明費用
- 車庫証明手続代行費用
- 検査・登録手続費用
- 検査・登録手続代行費用
- 納車手続代行費用(納車費用)
- リサイクル預託金
- OSS申請代行費用
なお、自動車重量税も含まれるとする見解がありますが、還付制度があるため、損害として認められないという見解もあります。
そして、自動車税と自賠責保険料は、車両の取得ではなく保持のために必要な費用であり(大阪地判平成26年1月21日)、未経過分の還付制度があることから、損害として認められないという考え方が定着しています。
- 車庫証明手続代行費用
- 検査・登録手続代行費用
- 納車手続代行費用(納車費用)
これらは、「通常、車両購入者がそれらを販売店に依頼している実情にかんがみ」(東京地判平成15年8月4日、東京地判平成15年8月26日)、「購入者が自ら手続をすべきと解するのは社会的実態に反する」(東京地判平成26年2月28日)ため、相当額について損害として計上されるとする裁判例が多いです。
上記「買替諸費用」は、「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得」するときにかかる費用であり、事故を受けて別の車に買い替えたときの買替諸費用ではありません。しかし、実務においては、保険会社から車を買い替えた際の見積書等の提示を求められ、その見積書等にかかれた金額をもとに賠償額を算定することがままあります。
また、保険会社によっては、なぜか上記買替諸費用や残存車検代等の支払いに応じないこともあります。その場合は、裁判例を提示し、根気よく請求することが必要になります。
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