【損益相殺】 損害賠償の範囲と損害額の算定方法
Q 交通死亡事故を起こしてしまいました。事故の被害者が生前、生命保険に入っており、死亡により生命保険金を受けたとき、その保険金は損害額から控除されますか?
損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故の被害者が加害者から損害賠償を受ける際、同一の事故を原因に被害者が利益を受け取った場合、その利益を損害額から減額することをいいます。損益相殺が認められるのは、被害者が損害以上の利益を受けてしまい、不公平であるからです。過失相殺と同様の発想だといえますが、被害者に過失がない点は異なります。
たとえば、交通事故により被害者が自賠責保険から支払いを受けたときや、交通事故が業務中で労災保険金が給付されたとき、自賠責保険や労災の分が損益相殺により損害額から減額されます。
今回のケースにおける生命保険金も、事故を原因として受け取った利益であるため、損益相殺されるかどうか、問題となります。その前に、損益相殺されるもの、されないものを見てみましょう。
損益相殺されるもの、されないもの
⑴ 減額されるもの
- ⓵ 受領済の自賠責保険金、政府保障事業によるてん補金
- ⓶ 既に需給を受けた分と給付されることが具体的に確定している社会保険給付金
―労災、(厚生、国民)年金、健康保険などです。 - ⓷ 受領済みの所得補償保険金
⑵ 減額されないもの
- ⓵ 加害者からの香典、見舞金
―もっとも、金額が社交儀礼の範囲を超えていれば、損害賠償額の一部弁済として減額されます。 - ⓶ 生命保険金
- ⓷ 搭乗者傷害保険金
- ⓸ 生活保護の給付金
- ⓹ 労働福祉事業の一環として支給される特別支給金、特別支給年金など(労働災害補償保険法23条)。
- ⓺ 将来の支給未確定分の社会保険給付金
―労災、厚生年金、共済年金など、未給付のもの。 - ⓻ 被害者の受領する損害賠償金についての税金
結論
以上が損益相殺として減額されるもの、されないものです。
生命保険金は減額されません(最判昭和39年9月25日民集18巻7号1528頁)。その理由としては、生命保険金は、
- ⓵ 死亡による損害の有無と関係なく契約に定められたものであり、損害のてん補を目的としないということ、
- ⓶ 交通事故とは別個の契約に基づくものであること、
- ⓷ 保険金は既に払われた保険料の対価である
ということが挙げられています。
こうして、被害者が生命保険金を受け取っていたとしても、損害額から減額されることはありません。
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