祖父が亡くなった場合
Q 祖父甲野太郎(事故当時84歳)は、平成22年3月22日、自転車で走行中、交差点を左折しようとした車と衝突事故に遭い、死亡しました。祖父には、妻、子供が2人、孫が1人いました。祖父は、年金暮らしをしていました。年額347万9700円を受給していました。ところで、損害賠償額はどのようになるでしょうか。 治療費は3万8086円、入院雑費1万3500円、葬儀費119万3740円かかりました。
積極損害
治療費、入院雑費、葬儀費は積極損害に入るので、合計124万5326円が積極損害となります。
消極損害(逸失利益)
ア 年金等受給権者の逸失利益
(ア)年金等受給権者の逸失利益働いている人が交通事故により死亡した場合、被害者が交通事故に遭わなければ将来働けたであろう期間内に得られた収入分が逸失利益として認められことに問題はありません。
では、公的年金や恩給の受給者が被害者となった場合はどうなるでしょうか。
年金受給者や受給資格を有する人の相続人は、将来受給できたであろう年金分を逸失利益として請求することが出来ます。なぜなら、恩給は受給権者に損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであり、その者の収入によって生活を支えられている家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められるからです。
- 普通恩給 逸失利益性を肯定(最判昭和41年4月7日)
- 地方公務員の退職年金 逸失利益性を肯定(最判平成5年3月24日)
- 国民年金 逸失利益性を肯定(最判平成5年9月21日)
- 障害年金 逸失利益性を肯定(最判平成11年10月22日)
- 遺族年金
普通恩給は、受給権者に対し損失補償ないし生活保障を与えることを目的とし、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても同一の機能を営むものと認められるので、逸失利益性が肯定されます。
判例は、退職年金の受給者が生存していればその平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を損害として、逸失利益と認めました、
国民年金はその目的・趣旨が普通恩給と同じであることから、普通恩給の逸失利益性が肯定されるのと同様に国民年金の逸失利益性が肯定されます。
判例は、障害基礎年金と障害厚生年金について、保険料が拠出されたことに基づく給付であることを理由に逸失利益性を肯定しました。ただし、受給者に子と配偶者があることに基づき加給されていた分は、拠出された保険料と年金給付との間に対価関係がなく、受給権者の婚姻や死亡などによって、受給権の喪失が予定されており、その存続が確実でないとして逸失利益性は否定されます。
判例は、遺族厚生年金と軍人恩給の扶助料について、逸失利益性を否定しています(最判平成12年11月14日)。なぜなら、遺族厚生年金専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有し、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけんれん性が間接的であることから、社会保障的性格の強い給付といえ、受給権者の結婚養子縁組など本人の意思により決定しうる自由により受給権が消滅するので その存続が必ずしも確実とは言えないからです。
(イ)受給期間
年金の逸失利益性が認められた場合、受給期間は、受給権者が生存している限り受給しえたと認められる場合は、平均余命までの年数で計算します。
(ウ)年金の逸失利益と生活控除費
生活控除率は概ね30~50%の範囲が一般的です。しかし、年金の逸失利益については、生活費に費消される可能性が高いため、高率な生活費控除がされます。そのため、年金額が少額で他に収入がない場合の方が年金額が高額で、他に多額の収入がある場合より、高率の生活費控除を認めることが多くなります。具体的には、50~80%のものがあります。
(エ)受給資格
年金は保険料を一定期間収めることで受給資格が発生します。 受給資格を有し、年齢が上がり受給開始年齢に近い場合、これまで述べた年金等について逸失利益性が認められます。
しかし、若年者については、保険料を納め続けて受給資格を得られたかどうかわからないので、死亡の時点では未だ年金収入を得られた蓋然性が低く、また受給開始まで相当長年月を要するために将来どのような給付が得られるか定かでないとして逸失利益性は否定されます。
イ 計算方法
計算方法は、「受給していた年金額×(1-生活控除率)×死亡時年齢からみた平均余命数に応じたライプニッツ係数」で行います。ウ 本件
本件で、太郎は年金により347万9700円の収入を得ていたので、これが基礎収入となります。本ケースの素材となった裁判例では、太郎が主に年金によって生活をしていたことから、生活控除率は、60%と認定されています。そして、死亡時点の84歳における当時の平均余命は6.60年であり、これに対応するライプニッツ係数は5.0756です。 したがって、計算すると、 347万9700円×(1-0.6)×5.0756=706万4626円が逸失利益となります。
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慰謝料
死者が、一家の支柱ではない場合、慰謝料は2000~2500万円が基準となります。本ケースの素材となった判例でも、慰謝料は2400万円と認定されています。
結論
したがって、積極損害と逸失利益と慰謝料を足した 124万5326円+706万4626円+2400万円=3230万9952円が太郎が受傷から生じた損害となります。
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