後遺症によりかかった治療費は請求できるの?
Q 後遺症によりかかった治療費は請求できるの?
私は過去に交通事故により負傷し、損害賠償請求訴訟に勝訴したのですが、その後後遺症が発生し、さらなる治療費がかかりました。
そこで、この後遺症によりかかった治療費は改めて加害者の方に請求することは可能でしょうか。
回答
通常、損害賠償請求権は損害及び加害者を知ったときから3年で消滅時効にかかりますが(民法724条)、予測し得なかったような後遺症については、後述するように時効期間が別個に進行すると判例は解しており、改めて治療費を請求することができます。
以下では、損害賠償請求権の消滅時効について規定した民法724条について解説していきます。
第1 消滅時効とは?
民法は、債権や損害賠償請求権のような権利について、一定の期間その権利を行使しない場合、相手方が時効の援用をすることにより(民法145条)その権利が消滅する制度を設けています。
損害賠償請求権の消滅時効について、民法724条は、「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しています(なお、債権等一般の消滅時効については、民法第一編・第七章「時効」に詳細な規定を置いているが、以下、損害賠償請求権の消滅時効の説明において適宜、必要なもののみ解説します。)。
この規定は、交通事故などの不法行為が発生してから、長い時間が経つと立証が難しくなるから、早めに決着をつけさせる方が良いと立法者が考えたために設けられたものです。
第2 「損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」とは?
1 「加害者を知ったとき」
民法724条の加害者を知ったときとは、判例では、「被害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であ(る)」(最(2)判昭和48年11月16日民集27-10-1374)とし、被害者が不法行為の当時加害者の住所・氏名等を知らずにその損害賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合には「加害者を知った」とはいえず、時効期間として起算されないとしています。
2 評価損について
民法724条の損害を知ったときとは、損害発生の可能性を知ったときではなく、損害の発生の現実の認識を要するとするのが判例の立場です。その理由として次のように述べています。損害発生の可能性を知った時を起算点とすると、不法行為の被害者は、「自己に対する不法行為が存在する可能性のあることを知った時点において、自己の権利を消滅させないために、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが、不法行為によって損害を被った者に対し、このような負担を課することは不当である」(最(3)判平成14年1月29日民集56-1-218)。
では、後遺症はどのように扱われるのでしょうか。
上記の判例の立場からも、後遺症の原因となった障害が現実化しておりいるので、この時から時効期間が起算されるとも思えるためにので問題となった事例が過去にあります。つまり、時効の起算点は、後遺症の原因となった損害の時点か後発的な後遺症が発症した時点なのか争われたのです。
このような問題について最高裁は、「当初予想し得た損害は、事後的に発生しても、最初の損害に含めて時効が進行するというのが原則である」とし、「予測し得なかったような後遺症が生じた場合は、当初の損害に対する判決確定後の治療費も請求でき、時効も別個に進行する」(最(3)判昭和42年7月18日民集21-6-1559)と判断しました。
なお、現在の実務一般では後遺症について、症状固定時が時効の起算点となるとされています。
本件では、質問者様の後遺症が予測しえなかったものであるならば、その症状が顕在化した時点ないし、症状固定の診断を受けた時点から3年は消滅時効にかかることはなく、改めて治療費を加害者の方に請求することができます。
もっとも、724条は「不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しており、この20年について判例は、除斥期間(時効とは異なり援用を必要とせず、この期間内に権利の行使をしないと権利が消滅するもの)としており(最(1)判平成元年12月21日民集43-12-2209)、この期間内であることが必要です。
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