示談後の請求はできるの?
Q 示談後の請求はできるの?
示談とは、交通事故により生じた損害の賠償について、被害者・加害者間で、加害者は一定の賠償金額を支払い、被害者がそれ以上の賠償金を請求しないことを内容とする合意です。
示談により、被害者は示談金を超える金額の請求権を放棄することになることから、示談後に追加請求をすることは基本的にできません。したがって、加害者側保険会社と一旦示談してしまった場合、その後に金額に不満をおぼえても、示談の効力を覆すことは非常に困難です。
示談の効力を覆すことができる場合
しかし、次のようなケースでは示談の効力を覆すことができる可能性があります。
(1)示談後に予想外の後遺症が発現した場合
最高裁判所昭和43年3月15日判決は、「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に少額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。」として、示談後の追加請求を認めています。
もっとも、基本的には示談の効力を覆すことは容易ではないですし、後日発現した後遺症が当初の事故によるものであるかという点も問題となります。そのため、少し痛みが出てきたということのみで追加請求をすることはできません。
また、加害者側保険会社も、一度示談をしていれば基本的に追加請求を認めません。
したがって、保険会社から提示された金額に少しでも疑義があるときは、安易に示談書にサインしないほうが良いでしょう
(2)被害者の無知に乗じた低額な示談
示談も、公序良俗に違反する場合には無効であると判断されます(民法90条)。
裁判例では、困窮状態にあった被害者が法律的に無知であることを利用してなされた示談で、後遺障害補償部分が裁判基準の半額にも満たないものであったケースにおいて、当該示談が公序良俗に反するものであると判断したものがあります(大阪地判S53.11.30)。
したがって、加害者が被害者の無知に乗じ、被害者の受傷の程度と比べて著しく低い金額で示談をしたという場合には公序良俗に反し無効となる可能性があります。
ただし、公序良俗違反か否かは厳密に判断されるため「もっともらえるとは知らなかった」という程度で簡単に無効になるというものではありません。
(3)加害者から脅迫を受けた場合
他にも、示談をするに際して加害者から脅迫を受けたという場合には示談の取消しができる可能性もあります(民法96条1項)。
加害者側保険会社は、被害者の味方ではない
加害者側保険会社は被害者の味方ではありません。そのため、被害者の受傷の程度に比べて非常に低額な賠償額を提示してくるケースも多くあります。
弊所で扱った過去のケースでは、12級の後遺障害等級が認定されたにもかかわらず、保険会社からは後遺障害を考慮に入れない不当な金額で提示を受けた段階でご相談にいらっしゃった方がいました。弊所が交渉を行った結果、最終的に後遺障害部分も考慮に入れて約1100万円の賠償額を獲得することができました(→詳しくはこちら)。このケースでも、示談をした後でご相談に来ていた場合には、全く違った結果になっていた可能性があります。
示談は慎重に。ぜひ一度ご相談を
以上のことからも、保険会社から提示額の提案を受けた場合には、示談をする前にまずは弁護士等の専門家にご相談いただければと思います。
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