下肢の偽関節による後遺障害
1 偽関節とは
偽関節は、骨折などの影響で正常に骨が癒合せず、関節のように動くようになってしまった状態(異常可動性がある状態)を指します。
長管骨(上肢では上腕骨、橈骨、尺骨、下肢では大腿骨、脛骨、腓骨)の骨折により症状固定時点でも異常可動性がある場合には、偽関節として後遺障害が認定される可能性があります。
以下では、下肢に偽関節が生じた場合を念頭にご説明いたします。
2 偽関節の原因と治療
偽関節は例えば大腿骨の開放骨折のように、長管骨の骨折により生じることが多いと思われます。その後治療にもかかわらず癒合が進まないことがあります。
また、骨折部位が細菌感染し骨隨炎等の症状が生じた場合にも、癒合が進まないことがあります。このような細菌感染によって癒合が進まずに偽関節が生じることを感染性偽関節と呼びます。
大腿骨の骨折に対しては、一般的には、骨折部位を髄内釘で固定する固定術、電気刺激により癒合を促す保存療法、偽関節の表面組織を除去して腸骨から採取した海綿骨を移植する等の偽関節手術があります。偽関節手術まで行うか否かは医師の判断を踏まえたケースバイケースとなるようです。
3 偽関節の後遺障害等級
以下のとおり、長管骨に偽関節が生じた場合には、後遺障害等級7級又は8級に該当する可能性があります。
① 後遺障害8級10号
「1下肢に偽関節を残すもの(❶)」
② 後遺障害7級10号
「1下肢に偽関節を残し(❶)、著しい運動障害を残すもの(❷)」
後遺障害等級7級か8級の差異は、偽関節が生じたことによって、❷著しい運動障害を残すか否かにより異なります。
ここでいう❷「著しい運動障害を残すもの」か否かは、下肢の長管骨に偽関節が生じ、それにより下肢の支持性を失い硬性補装具なくしては立位や歩行が困難となる障害を残す状態をいうとされます。
また、後遺障害診断書には「長管骨の変形」の有無の欄があり、異常がある場合には「偽関節」か「変形癒合」か記載する欄があります。そのため、偽関節が生じている場合には後遺障害診断書にもきちんと記載してもらうことが重要でしょう。
4 短縮障害について
また、偽関節が生じた場合、受傷した下肢が短縮する「短縮障害」が同時に生じることもあります。
短縮障害については、1cm以上の短縮で後遺障害等級13級、3cm以上の短縮で後遺障害等級10級、5cm以上の短縮で後遺障害等級8級が認定されます。
短縮障害の有無は、ロールレントゲンというレントゲン検査によって測って確認しますが、中には短縮障害が疑われるにもかかわらずロールレントゲン検査が実施されていないケースもあります。そのような場合には、積極的にロールレントゲン検査の実施を主治医に求めていくことが重要となります。
(なお、偽関節と短縮障害が同時に生じた場合には派生する症状として後遺障害等級の併合にはなりません。)
5 法的な問題点について
症状固定時期の問題
裁判例では、被害者が偽関節手術を行わないまま症状固定時期となり後遺障害を主張したケースにおいて、相手方保険会社から偽関節手術をした場合には癒合が進む可能性があるとして症状固定時期が争われるケースがあります。
大阪地判平成27年4月28日判決では、被告側が偽関節手術ができたため改善余地がある以上、症状固定に至っていないと反論しました。しかし、裁判所は、手術は身体への侵襲の程度が大きいことや手術をしないことが医学上に明らかに不合理とは言い難いこと等を理由として、被告側の主張を退けました。
逸失利益の問題
後遺障害等級8級の場合の労働能力喪失率は45%、後遺障害等級7級の場合の労働能力喪失率は56%が標準となります。もっとも、具体的な仕事や日常生活への影響等からより大きな弊害が生じることもあると思われます。そのような場合には、労働能力喪失率が争いになることも考えられます。
6 最後に
偽関節が生じた場合、高い後遺障害等級となることが多く、その場合の賠償金額も数千万に及ぶ可能性があります。
また、大腿骨の開放骨折等の障害は特に自転車乗車中の事故に多い類型かと思われます。自転車は自動車に比べて運転者の保護がされていないため、他の部位にも支障が生じていることもあります。
適正な後遺障害等級の認定を受け、慰謝料や逸失利益について裁判基準をもとにした適正な金額賠償を得ることができるように、弁護士への早期のご相談をお勧めします。
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