自動運転と交通事故の責任
弁護士 杉浦惠一
交通事故の発生
交通事故が発生した場合、民事上、又は刑事上の責任がついて回ります。
民事上は、民法の不法行為(民法709条)で損害賠償の責任を負ったり、怪我をした場合には自動車損害賠償保障法という法律(同法3条)で責任を負ったりします。
民事上の賠償責任
自動車損害賠償保障法3条は、
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
と定めています。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」は、「運行供用者」と言われます。
運行供用者には、自動車の所有者も含まれます。そのため、自分が運転する、しないに関わらず、自分の所有する自動車が事故によって人を怪我や死亡させてしまった場合は、責任を負うのが原則となっています。ただし、自分や運転者が注意義務を怠らず、被害者や第三者に原因があり、さらに自動車に欠陥がなかったことなどを立証できた場合には、例外的に責任を免れる、という建付けになっています。
物損の場合は、自動車損害賠償責任法に基づいて賠償を求めることはできません。
そこで、民法に基づいて賠償を求めることになります。
民法709条は、
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
と規定しています。
自動車損害賠償保障法3条とは違い、交通事故によって物を壊された被害者の側が、交通事故を起こした側に故意または過失があったことを立証しなければなりません。
自動運転と事故時の責任
レベル3の場合
令和2年4月に施行された道路交通法により、レベル3と言われる、特定の条件下でシステムがすべての運転をする自動車が公道を走るようになりました。
レベル3の自動車としては、すでに生産が終了している「ホンダ レジェンド」、メルセデス・ベンツの「Sクラス」「EQS」、BMWの「7シリーズ」などが挙げられるようです。
いずれにしても車種はわずかであり、また新車価格は1000万円を超える高額なものです。
レベル3は、自動運転が難しくなった場合は、システムの要求に応じて運転手が運転を交代しなければならないため、直ちに運転に戻れるようにしておく必要があります。
また、レベル3の自動運転も、道路交通法上は「運転」にあたり、運転手の故意・過失によって事故が起こった場合は運転手が民事・刑事上の責任を負います。
レベル4の場合
令和5年4月の改正道路交通法の施行により、レベル4(特定自動運行)の許可制度がスタートしています。
レベル4(特定自動運行)とは、道路交通法において、
「道路において、自動運行装置(当該自動運行装置を備えている自動車が第六十二条に規定する整備不良車両に該当することとなつたとき又は当該自動運行装置の使用が当該自動運行装置に係る使用条件(道路運送車両法第四十一条第二項に規定する条件をいう。以下同じ。)を満たさないこととなつたときに、直ちに自動的に安全な方法で当該自動車を停止させることができるものに限る。)を当該自動運行装置に係る使用条件で使用して当該自動運行装置を備えている自動車を運行すること(当該自動車の運行中の道路、交通及び当該自動車の状況に応じて当該自動車の装置を操作する者がいる場合のものを除く。)をいう。」
と定義されています。
特定の条件下で完全に自動運転を行い、自動運転が難しくなった場合は、システムの要求に応じてドライバーが交代することはなく、システムが自分で運転を止める車です。
福井県永平寺町や愛媛県松山市など、すでに運行がされたところもあるようです。
現在の運行はあくまで公共交通機関としてのものであり、自家用車の運用はされていません。
将来的に自家用車においてもレベル4の自動運転ができる自動車が導入され、事故を起こした場合、誰がどのような責任をとるのでしょうか。
現在の自動運転の様子を映像で見ますと、そもそもハンドルがない自動車もあります。
この場合、「運転者」が観念できないことが考えられます。
現在、政府において、レベル4の自動運転の普及を見据えた法整備が検討されています。
先述した自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任は維持される方向で議論されているようです。システムの欠陥が事故につながった場合は、運行供用者又はその保険会社から、メーカーに対して求償がされる可能性があります。
まとめ
最近の技術の発達、それに合わせた法改正のスピードはとても速いです。しかし、少なくとも現在普及している自家用車においては、運転者の故意・過失によって事故が起こった場合、運転者及び運行供用者が責任を取らなければならないことに変わりはありません。
システムが運転を助けてくれることに甘んじることなく、事故が生じないよう注意することが必要です。
関連コンテンツ
交通事故でお困りの方は、まず無料相談でご相談ください。交通事故に強い弁護士が、皆様のお話をじっくりお伺いして、最適な解決策をご提案いたします。
-
最新の記事
- 「自転車損害賠償責任保険等」の加入義務 ~高まる保険加入の重要性について~
- 交通事故後、保険会社から何を聞かれる? よくある質問と注意点
- 事故で傷が残った! 外貌醜状について
- 日頃の運転と交通事故――社用車のメンテナンスをしながら考えたこと
- 自動車保険の免責事項
- 交通事故の「評価損(格落ち)」とは?|修理しても価値が下がる理由と裁判例の傾向
- 【2026年施行】自転車も反則金の対象に!
- 脊柱変形と逸失利益|後遺障害11級でも労働能力喪失率が争われる理由とは?|名古屋総合法律事務所
- 妊娠中の交通事故で気をつけること|母子を守るための受診と示談の注意点
- 交通事故裁判のメリット・デメリットと進め方を弁護士が解説
- 示談がまとまらないけど裁判はしたくない!裁判以外の解決方法を弁護士が解説
- 人身傷害保険と利用の際の注意点について
- 積載物の損害の請求と立証について
- 本人が亡くなった後の後遺障害認定請求
- 下肢の偽関節による後遺障害
- 神経系統の障害に関する後遺障害等級12級と14級の違いについて
- ペダル付原動機付自転車「モペット」について
- 駐車場内の交通事故の過失割合
- ドライブレコーダー映像の保存方法及びその重要性について
- 代車の注意点
-
月別
- 2026年6月 (1)
- 2026年3月 (2)
- 2026年2月 (2)
- 2025年11月 (1)
- 2025年7月 (2)
- 2025年5月 (1)
- 2025年4月 (2)
- 2024年12月 (1)
- 2024年8月 (1)
- 2024年4月 (1)
- 2024年3月 (1)
- 2024年2月 (2)
- 2023年10月 (1)
- 2023年7月 (1)
- 2023年3月 (1)
- 2023年2月 (1)
- 2022年7月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2021年10月 (2)
- 2021年9月 (2)
- 2021年4月 (1)
- 2021年3月 (1)
- 2020年10月 (1)
- 2020年4月 (2)
- 2020年3月 (3)
- 2019年12月 (1)
- 2019年9月 (1)
- 2019年8月 (1)
- 2019年7月 (1)
- 2019年3月 (1)
- 2018年10月 (2)
- 2018年1月 (1)
- 2017年4月 (1)
- 2017年1月 (1)
- 2016年11月 (1)
- 2016年8月 (1)
- 2016年5月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年8月 (1)
- 2015年5月 (1)











