脊柱変形と逸失利益|後遺障害11級でも労働能力喪失率が争われる理由とは?|名古屋総合法律事務所 – 名古屋市の交通事故に強い弁護士【名古屋総合法律事務所】愛知県

名古屋市の交通事故,後遺障害に強い弁護士の無料相談

名古屋の弁護士による 交通事故相談 相談料・着手金0円 賠償金増額のプロフェッショナル集団 名古屋総合リーガルグループ

名古屋・丸の内本部事務所

地下鉄 鶴舞線・桜通線
丸の内駅4番出口徒歩2分

金山駅前事務所

金山駅
南口 正面すぐ

一宮駅前事務所

名鉄一宮駅・尾張一宮駅
徒歩5分

岡崎事務所

JR岡崎駅
徒歩5分

脊柱変形と逸失利益|後遺障害11級でも労働能力喪失率が争われる理由とは?|名古屋総合法律事務所

弁護士 田村淳

脊柱の変形障害の逸失利益|後遺障害における労働能力喪失率の争点とは?

交通事故で脊椎(背骨)に骨折や手術を伴う損傷を受けた方の中には、骨癒合後も脊柱に変形が残るケースがあります。このような「脊柱変形障害」は、自賠責の後遺障害等級認定の対象になり得ますが、問題となるのはその後です。実際の賠償請求の場面では、逸失利益(労働能力喪失率や期間等)が保険会社から争われることが少なくありません。

この記事では、脊柱変形に関する後遺障害と賠償上の争点について、実際の裁判例も紹介しながら、わかりやすく解説します。

脊柱変形障害とは?後遺障害等級と認定基準

脊柱変形障害とは、交通事故により脊椎(首・胸・腰の背骨)に骨折や脱臼などの外傷を負い、その骨が癒合した後に椎体(ついたい)と呼ばれる骨が変形した状態をいいます。骨折や骨の損傷が自然にくっつく過程で潰れてしまったり、ずれたりすることで、脊柱が本来の形を保てなくなります。

また、事故後に行われた手術(たとえば後方固定術や椎弓切除術など)による脊柱の形状変化も、変形障害として評価される場合があります。変形自体は痛みがなくても、姿勢保持や動作に影響を与えることがあり、後遺障害となりえます。

等級の判断基準(自賠責後遺障害)

自動車損害賠償責任保険(自賠責)では、脊柱の変形について次のような評価基準が設けられています。

〇6級5号
「脊柱に著しい変形を残すもの」

  • 自賠責の定義上、医学的に著しい変形(後彎・側彎や高度な圧潰)がある場合。
  • 例:複数椎体にわたる圧潰骨折で、全体的な支持性が大きく損なわれているケース。
  • 2椎体以上で50%を超える圧潰や、強い彎曲変形を伴う場合に該当する場合等。

〇8級相当(自賠責では8級明記なし。実務上“相当”)
「脊柱に中程度の変形を残すもの」

  • 実務上は1椎体が50%以上の圧潰が代表的例とされます。

〇11級7号
「脊柱に変形を残すもの」

  • 一般的には1椎体の圧潰が50%未満のもの。
  • 脊柱固定術後などでも、可動域制限が軽度かつ他覚的変形が残っている場合も対象。

これらは、基本的にX線やMRIなどの画像診断で明確な骨の変形が認められることが前提となります。痛み(疼痛)やしびれなどの症状だけでは変形障害とは認められず、あくまで「外形的・構造的に変形しているか」が問われます。

労働能力喪失率とは何か?逸失利益計算に欠かせない指標

交通事故による後遺障害が残った場合、その障害の影響で今後働けなくなった分の収入(=逸失利益)を請求できます。その計算の基礎となるのが「労働能力喪失率」です。

労働能力喪失率とは

簡単にいえば、「事故前と比べて、どれくらい働く力が失われたか」をパーセンテージで表したものです。例えば、20%の喪失率なら、「事故がなければ100の労働ができた人が、今は80しか働けない」ということになります。

等級ごとの標準的な喪失率(いわゆる「赤い本」基準)

後遺障害等級
労働能力喪失率(目安)
6級
67%
8級
45%
11級
20%

脊柱変形障害で逸失利益が争点になる理由

交通事故によって脊柱(背骨)に変形が残った場合、その後遺障害が「11級7号(脊柱に変形を残すもの)」などとして自賠責で認定されることがあります。しかし、実際の損害賠償交渉では、その等級に基づく労働能力喪失率(例:11級なら20%)が否定されたり、引き下げられたりする場面が少なくありません。

特に保険会社側は、

「脊柱の変形があるだけで痛みや麻痺がないなら労働に支障はない」
「可動域制限がないなら運動機能は正常であり、逸失利益は生じない」
「実に復職して働いているのだから、逸失利益の前提となる労働能力の喪失は存在しない」

のような論理で逸失利益を否定・減額しようとする傾向があります。

しかし、これらの主張は妥当でないことも多く安易に応じることは禁物です。裁判実務では、労働能力の喪失を形式的に判断するのではなく、実質的に判断することになります。

すなわち、

疼痛の残存(座位・立位保持が難しい、特定の動作で悪化)
疲労性の腰痛や違和感
反復動作・重量作業への支障
就労継続における配慮(部署転換、軽作業への変更)

といった具体的な影響が認められるかどうかが重視されます。

そのため、「画像上の変形があるか」「神経症状があるか」だけで逸失利益の有無を機械的に判断することは、不適切であるといえます。

裁判例に見る労働能力喪失率の認定傾向(等級どおり vs 減額・逓減)

以下に、実際の裁判例から3つの代表的なケースを紹介します

① 大阪地裁 平成26年2月28日判決
事案概要
看護師として勤務していた原告が事故により脊柱変形障害(11級7号)を負った。事故前に「第4腰椎分離すべり症」があったが、就労に支障はなかった。
判断
裁判所は「脊柱の変形障害」として20%の労働能力喪失率を30年間認めた。ただし、事故前の疾患が一定の影響を与えたとして、全損害の25%を素因減額した。
意義
脊柱変形と等級対応の喪失率20%が認定された。
② 東京地裁 令和元年12月25日判決
事案概要
高速道路での事故により、清掃業の原告が第5腰椎圧迫骨折→変形障害(11級7号)となり、歩行困難を訴えた。
判断
裁判所は、腰椎の変形が大きく、肉体労働に従事していることを重視し、20%の喪失率を22年間認定。
意義
労働内容の性質(重労働)と画像上の変形所見を基に、等級通りの喪失率を認めた。
③ 金沢地裁 平成28年7月20日判決
事案概要
原告は大学卒業後に別の大学へ通学中に事故に遭い、第12胸椎圧迫骨折により脊柱変形障害(11級7号)を含む併合11級の認定を受けた。
判断
裁判所は、変形自体は医学的に軽微で運動障害も認められないが、慢性的な疼痛や疲労感は認められるとして、以下のように労働能力喪失率を逓減的に認定した。
  • 最初の10年間:14%
  • 次の10年間:5%
基礎収入についても、精神疾患の影響を考慮しつつも就労可能性を否定せず、「大学卒男子の平均賃金の7割」を採用。
意義
脊柱の画像上の変形があるものの、機能障害が軽度である場合には、疼痛等の影響を限定的に評価し、喪失率を段階的に減らして認定する例として重要。

実収入に変化がない場合でも逸失利益は認められる?

労働能力喪失に基づく逸失利益は、実際の収入に減少がない場合でも認められるとするのが裁判実務の傾向です。

これは、逸失利益が「現実の損失」ではなく、「事故がなければ得られたであろう将来収入(期待利益)」の喪失に対する補償であるという原則に基づいています。したがって、以下のような事情があれば、減収の有無にかかわらず労働能力喪失が認定される可能性があります

  • 身体の状態が業務に影響している(疲労、疼痛、無理な勤務継続)
  • 将来的な職業選択の幅が制限されている(重作業や長時間労働ができない)
  • 同様の業務に就くことを断念・制限せざるを得ない
  • 特別な配慮のある職場でしか働けない(配置転換、軽作業)

脊柱変形障害で受け取れる賠償金の相場(慰謝料・逸失利益)

脊柱変形障害については、後遺障害等級に応じた慰謝料額と、労働能力喪失率に応じた逸失利益の2つが主な賠償の柱となります。

  • 裁判基準(赤本基準)
  • 後遺障害等級
    慰謝料相場(赤い本・裁判基準)
    6級
    1,180万円
    8級
    830万円
    11級
    420万円

    ※これは後遺障害慰謝料(精神的苦痛)であり、逸失利益とは別に請求可能です。

    〇逸失利益の相場感(例)

    たとえば、以下のようなケースでは:

    • 年収:500万円
    • 後遺障害等級:11級(労働能力喪失率20%)
    • 年齢:45歳
    • 喪失期間:67歳まで(22年間)
    • ライプニッツ係数:15.9369(年3%)

    計算式:

    500万円 × 0.2 ×15.9369 =約1,594万円

    したがって、上記事例ですと、慰謝料と併せ11級でも2,000万円前後の人身損害賠償額となる可能性があります。

    ※なお、収入水準、年齢、喪失率、逓減期間、過失割合などの事情により金額は前後します。

    適正な逸失利益を得るためのポイントと対策

    脊柱変形障害による逸失利益は、単に「脊椎が変形している」という医療的所見だけでは十分に認められないことがあります。前述のとおり、保険会社は、「変形があっても労働には支障がない」等として減額や否認を主張する傾向にあるため、障害が実生活や職務に具体的にどのような影響を及ぼしているかを明確に立証することが重要です。

    以下のような点に留意することで、適正な賠償を受ける可能性が高まります。

    医学的観点

    • 診断書・後遺障害診断書に所見を明記してもらう:
      • 「脊柱の支持性が低下している」
      • 「長時間の座位や立位保持が困難」
      • 「慢性的な腰背部痛により反復動作が困難」
      • 「疼痛・疲労により業務継続に支障がある」
    • 必要に応じて医師の意見書を取得する:
      • 就労内容への制限や、通勤・育児・家事などへの支障が、医学的にどのように裏付けられるかを明確に。

    就労・生活状況の記録

    • 職場での配慮・制限を記録
      • 軽作業への転換、業務免除、時短勤務、夜勤回避など
    • 家庭生活や社会活動への支障も記録
      • 通勤困難、育児参加の減少、趣味活動の断念など
    • 痛み・疲労の蓄積や日常支障のメモ(日誌)を継続的に記録

    法的手続と相談

    • 自賠責での認定されない場合には早期に異議申立を検討。
      • 医証等の所見の補強が重要です。
    • 裁判所基準での逸失利益請求を視野に入れる
      • 裁判では、「形式的な可動域制限」だけでなく、「支持性の低下」や「疼痛に伴う就労制限」が重視される判例が多数あります。
      • 弁護士による資料整理・主張の構成が不可欠です。

    弁護士に相談するメリット

    • 医学的な観点からの適切な資料の取得
    • 裁判例を踏まえた主張の構成が可能
    • 自賠責の被害者請求や異議申立、訴訟追行による適正な賠償金の獲得

    脊柱変形障害は、見た目やレントゲン所見では伝わりにくい「支持性の低下」や「痛み」に起因する障害です。だからこそ、「実際にどのように困っているのか」を丁寧に立証することが、正当な賠償を受けるための鍵となります。

    事故後の対応に不安がある方、後遺障害の認定や賠償に納得がいかない方は、お早めに専門の弁護士へご相談ください。初回相談のみで状況が大きく改善するケースも少なくありません。