交通事故と時効
1. 請求権には時効がある
何らかの請求権には、民法上「時効」があります。これは交通事故を原因とする損害賠償請求も例外ではありません。
交通事故の損害賠償請求権は、民法上、不法行為(民法709条)という条文に基づくか、自動車損害賠償保障法に基づいて請求されます。
現行の民法(改正前の民法)では、不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅するとされています。
そのため、加害者が事故の直後から逃げていて、誰が加害者か分からない場合には、その分からない間は時効期間が進みません。
また、損害がはっきりしない場合にも、その間には時効期間が進まないことがあります。
過去の裁判例では、交通事故による後遺障害がある場合に、後遺障害に関する損害の時効は、症状固定の診断を受けた時を損害を知った時として、この時点から時効期間が進行するとしたものもあります。
ただし、治療をしても改善が見られない状態が続いているにもかかわらず、いつまでも後遺障害の診断を受けないと、症状固定の診断を受けた時よりも前の時点で、実際に症状固定の状態になっていたと判断される可能性は否定できません。
2. 承認によって時効の中断
消滅時効の問題に関して、「承認」という問題があります。
現行の民法(改正前の民法)では、147条で、「請求」、「差押え、仮差押え又は仮処分」と並んで、「承認」があった際には、時効が中断することになっています。
時効が中断しますと、まだ一から時効の期間が進みますので、債権が時効で消滅するまでの余裕ができます。
ただし、この「承認」になっているかどうか争いが生じ、時には「承認」として認められず、賠償請求権が時効で消滅してしまうことがあります。
3.承認が認められず、賠償請求権が時効で消滅した例
平成29年11月に出された大阪地方裁判所の裁判で、この点の争いが生じた例があります。
この件では、事故による怪我・障害が重大で、意識障害が残り、最終的には成年後見人を選任しなければならなくなった事案でした。
意識がなく、成年後見人までつけなければならないような重大な障害が残ったような場合には、症状固定の診断も難しく、将来の介護をどうするかといった問題も生じますので、時間がかかることが多いと思われます。
例に挙げた事案でも、平成20年に交通事故が発生してから、平成28年に訴訟提起されるまで、約8年間が経過しています。
この事案では、原告側は債務が承認されており、時効が中断している根拠として
- (1)被告側の保険会社が、過失割合の協定及び支払方法についての協議を求める旨を記載した書面を送った
- (2)被告側の保険会社が、治療費の賠償に応じ続けた
- (3)原告側が既払金の明細書の送付を依頼した際に、被告側保険会社が「今後ともよろしくお願いします。」と述べた
といった事柄を挙げていました。
これに対して、裁判所は
- (1)最後に送った書面に残債務があること
- (2)債務が存在することを前提に示談交渉をする意思があることをうかがわせる記載がないこと
- (3)「よろしくお願いします。」といった点も社交辞令以上の意味をもつとは理解されないこと
- (4)過去の書類の送付はあくまで過去の既払金の明細を明らかにする趣旨で参考送付されたものにとどまると考えられる
ということで、被告側の保険会社による最終の支払日から3年が経過し、時効が完成してしまったと判示しました。
このように、交通事故で、怪我や障害の程度が重大なときには、事故の発生からかなり長い期間、交渉することが難しい場合もあります。
この裁判例では、少なくとも保険会社が最終の支払いをした日までは、債務が承認されており、消滅時効の起算点が到来しないと判断しているようにも読めますので、確実ではありませんが、この点も重要な点になると思われます。4. まとめ
いずれにしても、交通事故は事故の発生から3年以内に解決するか、訴訟を起こした方が無難でしょうから、早いうちから専門家に相談して、準備を進めるのがいいでしょう。
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