交通事故調査のデジタル化
はじめに
弁護士 杉浦恵一
2020年7月30日の日本経済新聞に、東京海上日動火災保険株式会社が、ドライブレコーダー映像を使用して、遠隔地から現地調査をすることができる仕組みを開発した、という報道がありました。
ドラブレコーダーによる交通事故調査のデジタル化
具体的にどのような話かというと、事故状況の再現システムを開発し、それを使用することで、どのような事故があったのか分析・再現するという仕組みのようです。
まずは、通信機能のあるドライブレコーダーで、事故が起きた場所を把握するということです。これは、通信機能があれば、位置情報を発信・記録するシステムがあり、どこで事故が起こったかをある程度正確に把握できるということだと思われます。
位置情報システムの精度によっては、事故前の動きや、衝突による車両の動きも正確に把握できる可能性もあります。
また、ドライブレコーダーの映像から、交通時の相手方車両の動きを読み取ったり、加速度センサーで衝突時の速度、ブレーキを踏んだかどうか、ブレーキを踏んだタイミングなども分析できるようです。
さらには、ドライブレコーダーの映像に、信号が写っていたり、道路標識や道路上の表示が写っていれば、これも過失割合の分析に使用できるようです。
報道記事では、東京海上日動火災保険の新システムを使うことで、従来は約1週間かかっていた事故報告書の作成が5分まで短縮できるということです。
また、新システムでは、500万件超の事故データをAIに学習させ、どのような事故なら、どのような過失割合になるのか、過去の裁判例など約6000通りから自動で選び出すことができるようです。
従来、信号待ちで停車している自動車に後ろから追突したような、完全に一方的な過失の場合を除き、交通事故では、過失割合がどの程度か、という問題が大きな問題でした。
このような過失割合の問題では、前提となる事実関係、例えば信号がどのようになっていたか、速度はどの程度の速度か、信号のない交差点に進入したのはどちらが先か、ウィンカーを出していたか否かなど、事実関係が大きな争いになっていました。
このような争いがありますと、第三者の目撃者がいて、事故の状況をはっきり目撃しているような場合を除いて、どちらの当事者の言っていることが正しいのか、決め手がなくはっきりしない、という場合が多いように思われます。
最近では、ドライブレコーダーを搭載している自動車も増えてきているようですので、ドライブレコーダーの映像が残っていれば、ある程度の事故状況は客観的に分かり、争われる点を従来よりも少なくすることが可能です。
それでも、速度やブレーキを踏んだかどうか、そのタイミングなど、映像だけではよく分からない部分もありますので、そのような場合には、交通事故の鑑定を依頼せざるを得ない場合も出てきます。
このような状況は、ドライブレコーダー映像、通信機能の位置情報、加速度センサーといったものを複合的に合わせ、事故状況を客観的に示すことができる事故図面などが速やかに作成されれば、一変する可能性もあります。
最後に
とはいえ、交通事故の争点は、事故の状況、つまり過失割合だけではありません。自動車が損傷した場合、評価損の問題が発生したり、怪我をすれば、どの程度の慰謝料が発生するかといった問題や、後遺障害が認められるか否か、といった問題もあります。
怪我の場合、主観的な部分が問題になることもありますので、こういった客観的に明らかにしにくい問題が残るでしょう。
交通事故では、このような技術の発展とともに、対応の仕方が一変する可能性もありますので、技術革新を継続的に見ていく必要があるでしょう。
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