自動運転と交通事故の責任
弁護士 杉浦惠一
交通事故の発生
交通事故が発生した場合、民事上、又は刑事上の責任がついて回ります。
民事上は、民法の不法行為(民法709条)で損害賠償の責任を負ったり、怪我をした場合には自動車損害賠償保障法という法律(同法3条)で責任を負ったりします。
民事上の賠償責任
自動車損害賠償保障法3条は、
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
と定めています。
ですから、怪我等が生じてしまった場合には、自動車側に責任が認められやすくなります。
刑事上の責任、処罰
交通事故で怪我人が出ますと、刑事上の責任も問題になってきます。
刑法では、過失の物的損害は原則として犯罪にはなりませんので、物的損害しか発生していない場合には、民事上の問題になります。
刑事上の問題では、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が自動車運転による怪我等への罰則を定めています。
例えばこの法律の5条(過失運転致死傷)は、
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
と定めています。
こういった民事上、又は刑事上の責任を負うのは、あくまで運転者に注意義務違反などがあり、何らかのミス等によって怪我などを発生させた場合に限られます。
どうしても避けられなかった理由がある時は、責任を負わない
どうしても避けられない理由で、つまりミスなどがなく発生してしまった事故や怪我に対しては、責任を問われないということが原則になっています。
しかし、昨今の技術的な発展により、自動車の自動運転技術が進歩してきていますので、いずれは完全な自動運転が実用化される可能性もあります。
このような場合に、自動運転だと何らかの事故が起こり、怪我などが発生しても、民事上も刑事上も責任を負わないのでしょうか。
自動運転で事故が起こった場合には??
2021年8月30日の日本経済新聞に、自動運転の際に発生した事故の責任についての記事が掲載されております。
この記事の中では、運転プログラムの設計の問題が指摘されています。
処罰は、「再犯を防止するため」に科される
なぜ刑事上の責任が問われるかという理由の1つとして、処罰によって再犯の防止は一般的な犯罪の抑止という視点があります。
この理由からすると、完全な自動運転の場合、運転者はいないわけですから、仮に完全な自動運転の事故が起こったとしても、運転者を処罰する意味がないことになります。
運転者は乗っているだけで何もしておらず、危険を回避する義務もないわけですから、運転者を処罰しても、交通事故の回避にはつながりませんし、一般的な自動車事故の抑止にもつながらないことになります。
(ここでは、完全自動運転の車の運転者を処罰することで、自動車に乗る人間を減らした結果、事故が減るということは考えないことにします)
プログラム設計者が処罰を受ける?
運転者を処罰しても意味がないとなりますと、次に誰を処罰するのかとなれば、自動運転は運転プログラムに基づいて走っているはずですから、運転プログラムの設計者が処罰を受ける可能性が指摘されています。
例えばの例として、自動運転プログラムが、一定の交通事故を避けるために歩道に乗り上げることも許容するプログラムだったとします。
このように事故を避けるために運転プログラムによって歩道に乗り上げた際に、歩行者にぶつかって怪我をさせてしまう可能性があります。
そうしますと、歩行者が怪我をしたのは、歩道に乗り上げる運転プログラムを作ったプログラマーの責任だという責任論が出てきかねないと考えられます。
自動運転の場合、一律にメーカーの責任とすることも考えられますし、刑事罰は科さないとする議論も考えられます。
このような問題は、国が一定の制度を決めるしかないと考えられますが、決まらない限り、まだ日本では自動運転の普及は難しいでしょう。
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