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人身傷害保険のメリットと実務上の注意点―最高裁判決と大阪高裁判決の紹介

1.人身傷害保険のメリット

交通事故に遭うリスクに備えて、人身傷害保険への加入を検討する方もおられるでしょう。この保険は、例えば、自分にも事故発生につき過失がある場合でも、契約した保険金額内で補償を受けられるといったメリットがあります。加害者本人や加害者加入の任意保険会社からの支払いを受ける際には、過失相殺により過失分の損害額は填補されないことから、人身傷害保険に加入するメリットは大きいと言えましょう。

2.人身傷害保険を使う際の注意点

もっとも、自己にも過失がある場合、先に人身傷害保険から支払いを受けることが重要です。

このことに関して、下記判例1の最高裁は、平成24年2月2日の判決で、人身傷害保険会社が保険金請求者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲についての一定の判断を示しました。これは、簡単に言えば、人身傷害保険会社が人身傷害保険を支払った場合に、人身傷害保険会社がその分を加害者に求償できる額を限定する判断をしました。限定された分被害者が加害者に請求できる額を増やすことができ、最終的に被害者に過失がなかったのと同様の金額を受け取れるようになります。

しかし、反対に、先に加害者加入の任意保険会社や加害者との示談により金銭の支払いを受けた場合、後から自分の過失部分について人身傷害保険を請求しても過失がなかったのと同様の金額を受け取れない可能性があります。
それは、約款上、保険金の支払いについては自社の基準で決まる損害額をもとに決める(ただし裁判で決まった損害額があるならそれを基準とする)といった規定がなされているものが多くあります。そうすると、裁判で損害賠償金を加害者加入の任意保険や加害者から受け取っていない限り、人身傷害保険会社の低い基準での損害額しか受け取れないということになります。下記判例2の大阪高裁は、この見解を判示しております。

ですので、先に人身傷害保険金を受け取ることを人身傷害保険会社である損保会社と先に交渉する方が最終的に多くもらえる可能性があります。

判例1

事件番号 平成21(受)1461
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年2月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
判例集等巻・号・頁 民集 第66巻2号742頁
原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審事件番号 平成20(ネ)359
原審裁判年月日 平成21年4月10日

判示事項

1 自動車保険契約の人身傷害条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権の代位取得の有無

2 自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において上記条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲

裁判要旨

1 被害者が被る損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない。

2 保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において,上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
(1,2につき補足意見がある。)

参照法条

(1,2につき)商法(平成20年法律第57号による改正前のもの)662条,保険法25条,民法91条,民法709条,(2につき)民法722条2項

判例2

事件番号 平成23(ネ)2046
事件名 保険金請求事件
裁判年月日 平成24年6月7日
法廷名 大阪高等裁判所 第13民事部
判例集等巻・号・頁 第65巻1号1頁
原審裁判所名 京都地方裁判所
原審事件番号 平成22(ワ)1553

判示事項

自動車保険契約の人身傷害補償特約の被保険者である被害者に過失がある場合において加害者から既に損害賠償金の支払を受けた保険金請求権者が保険会社に支払を求めることができる人身傷害補償保険金の額

裁判要旨

次の(1)及び(2)のような条項のある自動車保険契約の人身傷害補償特約の被保険者である被害者に過失がある場合において,加害者から既に損害賠償金の支払を受けた保険金請求権者が保険会社に支払を求めることができる。

人身傷害補償保険金の額を算出するに当たっては,上記条項の文言を重視して,人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算出された金額の合計額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきであり,被保険者である被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきではない。

(1) 保険会社が保険金請求権者に支払う人身傷害補償保険金の額は,人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算定された金額の合計額から保険金請求権者が損害賠償義務者より既に取得した損害賠償金を控除した額とする。

(2) 保険会社は保険金請求権者に支払った人身傷害補償保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。

3.さいごに

損保会社も営利企業であり、保険金支払いが少なくて済むなら、その方が利益が上がるため、交渉をしても上手く支払いまで進まない可能性があります。弁護士が交渉に介入することで、保険金の支払いが増額することもよくあります。そのため、交通事故の被害に遭われた方は、けがの治療をするとともに、弁護士に早期にご相談することもおすすめします。