自賠責と労災保険と被害者の損害 どれが優先されるの?
1. はじめに
交通事故が起こった時に、通勤中や勤務中だと、労災保険を使える場合があります。労災保険では、勤務中の災害による損害を補てんすることが目的ですので、かなり長い期間にわたって労災保険から治療費が支払われたり、休業補償がなされることがあります。
ただし、労災保険の場合には、慰謝料までは支払われません。
また、交通事故が起こった時に、加害者が民間の任意保険に加入していない場合や、被害者側にも過失がそれなりにある場合に、自賠責保険に保険金の支払いを請求する場合があります。
ただし、自賠責保険には、事故の程度や後遺障害の程度によって支払われる保険金に上限がありますので、必ずしも全ての損害が補てんされるとは限りません。
2. 自賠責?労災保険?
交通事故が起こったときには、場合によって労災保険が使えたり、自賠責保険が使えたりと、いろいろな制度があります。逆に、使える制度がいろいろありますと、その制度の間でどのように調整するかの問題が発生することがあります。
平成30年9月27日、最高裁判所で、交通事故被害者が労災保険を使い、さらに自賠責保険へ保険金の請求をした場合の、労災保険との調整の問題が判断されました。
労災保険(政府)は、交通事故の被害者に労災保険から保険金などを支給した場合には、加害者の分を立て替え払いしたということで、その分を加害者の自賠責保険に請求する権利があります。
他方で、交通事故の被害者は、労災保険では補てんされなかった部分を加害者の自賠責保険に請求することができます。
自賠責保険は上限がありますので、この2つが競合した場合には、どちらを優先するのかの問題がありました。
従来の運用では、交通事故の被害者が請求した金額と、労災保険(政府)が請求した金額の比率で按分して、金額によってそれぞれに保険金を支払っていたようです。
これに対して、最高裁判所は、自賠責保険の制度趣旨が、保険金で確実に交通事故によって生じた損害の補償を受けられるようにするための制度であり、被害者の保護を図るための制度であるため、被害者が自賠責保険から優先的に保険金を受け取れないのは制度趣旨に沿わないということで、労災保険(政府)よりも被害者が優先して、自賠責保険から保険金を受け取ることができるという判断をしました。
3. まとめ
加害者が任意保険に入っていない場合や、被害者側の過失がそれなりにある場合には、被害者が実際には十分な補償を受けられないこともあります。
被害者を救済するという目的からすれば、この判断は妥当なものだと思われますので、今後の運用はより被害者にとって有利なものになるでしょう。
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