将来の介護費用は?後遺障害認定3級以下の実例と請求について解説
不幸にも、交通事故により重篤な後遺障害が残存し、日常生活を送るうえで、介護を必要とする状態になってしまった場合、当該介護費用は損害賠償請求の対象となります。
では、どのような場合に介護費が請求でき、またどの程度の請求が可能なのでしょうか。
介護費用を請求できる場合~介護の必要性~
自賠責保険の後遺障害等級上、介護が必要とされる場合、以下のように認定されます。
別表第一 第1級
- 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
別表第一 第2級
- 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
では、自賠責保険で以上の認定がなされない場合には、将来介護費用は認められないのでしょうか。
自賠責保険で3級以下の認定であるにもかかわらず、具体的状況に応じて介護費用が認定されたケースは少なくありません。
別表第一の認定がなされず、別表第2の3級以下であっても、介護費用が認められたケースをいくつか紹介します。
事例紹介
ケース1
高次脳機能障害(7級)・半盲(9級)・外貌醜状(7級併合5級)
自発的に日常生活動作ができず声掛けが必要であり、外出時には付き添い看視が必要であることから、平均余命まで日額2,000円の介護費用を認定
(東京地裁平成23年9月22日)
ケース2
高次脳機能障害(自賠責別表第二の5級、裁判所認定同7級)
日常生活において家族による見守りが必要となる場合がないとはいえず、また、初めての道を通ると帰り道がわからなくなるため付添いが必要な状態にある等から、月額1万5,000円を認定
(名古屋高裁平成26年11月20日)
ケース1、ケース2は、自賠責別表第2・3級以下の高次脳機能障害が残存したケースです。
この点、身体性機能障害がない高次脳機能障害については、介護が不要であると思われがちです。
しかし、身体は健康で自由がきくため、患者が何をするかわからず、見守り看視等が必要となる場合が少なくありません。そればかりか、怒りやすく罵詈雑言を浴びせられたり暴行を加えられることまであります。 そのため、介護者は常に気を張っていなければならず、その精神的負荷は、身体性機能障害がある場合よりも大きいといって過言ではありません。
そのため、自賠責保険で3級以下の等級が認定された高次脳機能障害患者についても、介護者の精神的負荷を損害として計上し、将来介護費を求めて戦うべきですし、その価値は十分にあります。
ケース3
CRPS(複合性局所疼痛症候群) (自賠責別表第二の7級4号)
右上肢による巧緻な作業をすることができない上、少なくとも長距離の歩行には困難を伴っているため、週4の食事介助、排せつ介助等のほか、月2回程度の移動解除を受けているのであり、その余の日々についても同程度の訪問介護を要する状況にあるとして、平均余命まで日額3,000円を認定
(横浜地裁平成26年4月22日)
ケース3は、2級3号相当を主張したものの、7級4号と認定された事案ですが、実際の介護状況に照らして、介護費用が認定されたものと思料いたします。
介護費用はどれくらい請求が可能か
上記のように、自賠責保険の認定が3級以下であっても、実際に介護を必要とすることが立証できれば、介護費用が認められるケースがありますので、実際の介護状況について忘備録等を作成しておきましょう。
次は、介護の必要性が認められたことを前提に、介護費用としてどの程度の請求が可能であるかについて言及していきます。
後遺障害は将来にわたって残存するものですので、介護費は被介護者が亡くなるまで発生することになりますが、平均余命までの期間を対象として請求することになります(中間利息は控除します)。
介護費用の一般的な基準は次の通りです。
医師の指示または症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認める。
職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8,000円。但し、具体的介護の状況により増減することがある。
「⺠事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」より抜粋
実際に支出されるであろう費用額に基づき相当額を認定する。近親者が付き添いを行う場合には、常時介護をする場合で1日につき8,000円から9,000円を目安に算定を行う。
常時介護を必要としない場合には介護の必要性の程度、内容により減額されることがある。
「介護報酬の解釈」より抜粋
まとめると
- 職業付添人(看護師や介護福祉士の資格を持った付き添い専門の人)は実費全額請求可能
- 近親者付添人は1日/8,000円〜9,000円(状況により変動あり)
- 常に介護が必要ではない場合は減額されることもある
ということになります。
介護を受ける場所は? 施設か自宅か
医療機関で治療を受け、症状固定となり治療期間が満了した場合、患者は、どこで介護を受けるのか、すなわち、施設に入所し、24時間体制で介護を受けるか、自宅で介護するかを検討しなければなりません。
もちろん、当初、施設に入所できたとしても、退所させられることもありますし、当初自宅で介護をしていたものの、途中から施設に入所することも考えられます。どこで、介護を受けるのか慎重に検討しましょう。
損害賠償の対象になる一例
自宅で介護をするにあたり、損害賠償の対象になる一例は以下のものです。
- 自宅をバリアフリー対応に改装した費用
- 患者通院用に購入した介護車両
- 介護用ベッド等介護用品
もっとも、同居家族の便益にもなる場合には、全額認められるわけではありませんのでご留意ください。
誰が介護する? 近親者か職業人か
自宅で介護する場合、誰が介護者となるかを検討しなければなりません。
介護費用については、上で述べた「介護費用はどれくらい請求が可能か」にあるとおり、職業人による場合は実際に要した費用、近親者介護の場合には、日額8,000円~9,000円が目安となります。
近親者介護の場合、裁判例においては下記を総合的に勘案し、介護主体にとっての肉体的・精神的負担の程度を具体的、実質的に検討して、将来介護費を算定しています。
- 被害者の後遺障害の内容・程度、被害者の要介護状態
- 日常生活の自立の程度
- 必要とされる介護の内容・程度
- 介護のために必要な時間
- 介護主体の属性(性別・年齢・健康状態等)
- 介護仕様の家屋の建築
- 介護用具の使用等の要素など
そのため、上記目安以上の日額が認められる場合や、介護者が2人以上必要であると認定される場合もあります。
近親者だけで介護をされる場合には、適宜相談できる環境を整える、平日は職業介護で夜間早朝は近親者介護といった併用、一定の曜日につき公的介護サービスを利用するなど、現実的な介護環境を検討しましょう。
公的援助との関係
介護保険等の公的扶助の制度により、介護費用の負担を免れた部分について、介護費用が減額されるのでしょうか。
この点、裁判終了時(第1審口頭弁論終結時)までの介護費用については、実際に発生しているものであり、厳密な意味での「将来」介護費ではなく、公的扶助により負担を免れた分、介護費用が減額されます。
しかし、それ以降の「将来」介護費用については、以下の理由から、公的扶助による減殺をしないのが一般的です。
公的扶助の制度が設けられているとしても、公的扶助を受ける義務を負うものではないし、同制度が将来にわたって存続する保障もないから
(仙台地裁平成9年10月7日 自保ジャーナル1231号等)
介護保険給付について、現実に支給されていない将来の給付見込み分について第三者が損害賠償の責任を免れることはできない
(大阪地裁平成13年6月28日等)
将来介護費用認定に備えて準備できるもの
将来介護費用を認定するうえで重要となるのがこれまでの介護実績です。
介護者による具体的な介護内容(1日のスケジュール・介護状況等)に関する日誌・忘備録等、介護をするにあたり必要となった介護用品の領収書を保管するとともに一覧表等を作成しましょう。
これまでの介護実績が適切なものであれば、将来にわたって同じ介護を受ける蓋然性があると認められやすくなります。
資料集めが功を奏した一例
将来介護費用は、(中間利息分は控除されますが、)平均余命まで認定されるため、その費目だけで相当高額になる場合が少なくないことから、裁判においてはその額の算定を巡って激しい対立となります。
例
別表第一の第1級認定・症状固定時30歳男性・自宅介護・近親者介護の場合
日額8,000円×365日×51.21*
≒1億4,953万,200円+自宅介護に要した介護用品・自宅改装費等
*平成26年簡易生命表より
このことから、将来の介護体制について慎重に検討するとともに、日常的に、介護の必要性・介護費用の相当性を裏付ける資料集めが重要となります。
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